引き続き、社会保障審議会・介護給付費分科会にて提言された内容について分かりやすく解説いたします。
今回は施設系サービス・その他サービスに依存しない内容について触れていきます。
施設系以外のサービスごと提言についてはこちらの記事もご参考ください。
※ここで記載している内容は2023年12月15日現在の情報に基づいており、最終的な介護報酬改定の決定事項ではありません。

多床室の室料負担見直し

参考:第234回 介護給付費分科会「介護老人保健施設(改定の方向性)」

概要 介護老人保健施設(老健)・介護医療院において、多床室の室料は一部負担となっていますが、今後は一定の所得を有する多床室の入所者から室料の全額自己負担を求める方向で検討されています。

ねらい

  • 介護医療院での死亡退所率の高さから2つの施設は、特養と同様に「終の棲家」としての機能を十分に担う為。
  • 老健施設については、死亡退所は少ないが、療養型およびその他型の介護老人保健施設については実態として死亡退所が多く、生活の場として選択されている。
  • 特養との整合性を取る。

介護老人保健施設

参考:第231回 介護給付費分科会「介護老人保健施設(改定の方向性)」

在宅復帰・在宅療養支援機能の強化

概要

在宅復帰機能等の更なる強化を狙い、

  • 入所前後訪問指導割合・退所前後訪問指導割合の基準を引き上げる。
  • 支援相談員の配置において社会福祉士の配置も評価する。
  • リハビリ機能をさらに強化する為、リハ加算の新区分を設定する。

などの提案がされています。

ねらい

  • 老健の役割である「家庭への復帰」を促進する施設を評価します。

新区分「リハビリマネジメント計画書情報加算」の新設

概要

リハビリマネジメント計画書情報加算に新たな加算区分を新設します

現在のリハビリマネジメント計画書情報加算 →医師とリハビリ専門職が共同して、リハビリ実施計画を入所者・家族等に説明し、継続的にリハビリの質を管理すること、入所者ごとのデータをLIFEに提出することを評価します。(現在:1か月あたり33単位)

新設される上位区分の要件

  • 口腔衛生管理加算Ⅱおよび栄養マネジメント強化加算を算定している。
  • リハビリ実施計画等の内容について、リハ・口腔・栄養の情報を関係職種間で一体的に共有する。
  • 共有した情報を踏まえて見直しを行い見直し内容をフィードバックする。

ねらい

  • リハビリ・栄養管理・口腔管理の一体的推進を目指します。

老健施設の所定疾患療養費に「慢性心不全が増悪した場合」を追加

概要

所定疾患療養費の対象に「慢性心不全が増悪した場合」を追加します。

現行の所定疾患療養費 肺炎、尿路感染症、帯状疱疹、蜂窩織炎のいずれかに該当する入所者に対する治療管理を行うためのコストを評価するもの、1日239単位または480単位。

ねらい

  • 医療ニーズの高い老健施設入所者により適切かつ十分な医療提供を行います。

看取りへの対応の充実(ターミナルケア加算)

概要

ターミナルケア加算について、「死亡日から期間が離れた区分」の評価を引き下げ、「死亡直前」の評価を引き上げます。 現在も死亡日が近づくにつれて高い報酬が設定されていますが、よりメリハリをきかせます。

現行のターミナルケア加算
●死亡日45日前-31日前:1日あたり80単位
●死亡日30日前-4日前:同160単位
●死亡日前々日、前日:同820単位
●死亡日:同1650単位

ねらい

  • 老健施設での看取りへの対応を充実させます。

ポリファーマシー対策の推進(かかりつけ医連携薬剤調整加算)

概要

かかりつけ医連携薬剤調整加算(I)について、「入所前の主治医と連携して薬剤を評価・調整した場合」に加えて、「施設において薬剤を評価・調整した場合」にも評価します。

ポリファーマシー:多剤投与による有害事象

ねらい

  • 施設等入所中になるべく減薬を実施できるように老健におけるポリファーマシー対策を推進します。

介護医療院

参考:第231回 介護給付費分科会「介護医療院(改定の方向性)」

希望する入所者・家族「全員」にACP対応を求める

概要

介護医療院の基本報酬の算定要件・施設サービス計画の作成において、本人の意思を尊重したうえで、入所者「全員」に対し「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に沿った取り組みを行うことを求めます。

ACP対応:どのような医療や介護を受けて最期を迎えるかを計画・話し合い、共有すること。

ねらい

  • 介護医療院でのACP対応が充分とは言えない実状への対応です。

認知症対応

参考:第232回 介護給付費分科会「認知症への対応力強化(改定の方向性)」

認知症加算、日常生活自立度Ⅲ以上の利用者割合を軽減

概要

認知症加算の算定条件である「認知症高齢者の日常生活自立度ランクIII以上の利用者割合が20%以上」を見直します。

ねらい

  • 認知症加算の算定率が低い為、実態に見合う見直しを行います。

訪問サービスにおける認知症専門ケア加算の日常生活自立度「Ⅱ」以上をカウント対象にする

概要

認知症専門ケア加算の加算条件である「認知症高齢者日常生活自立度のIII以上の利用者割合が、全利用者の1/2以上」を見直します。 例えば、「認知症高齢者日常生活自立度『II』以上の利用者割合が、全利用者の1/2以上」とするなど。

ねらい

  • 通所介護と訪問系サービスでは状況が異なる点を踏まえ、要件緩和を行います。

「BPSDを未然に防ぐ」取り組みを行う介護施設やグループホームに新加算

概要

BPSDをチームで対応する取り組みを評価する加算を新設します。
BPSD:認知症の人にみられる精神症状・行動症状

【評価する取り組みの例】

  • BPSD予防の研修修了者を配置し、事業所内で「BPSD予防に資する認知症ケア」の指導を実施します。
  • 認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上の利用者に、BPSDの評価指標を用いて客観的評価をし、チームでBPSD予防に資するケアを提供します。
  • チームケアの実施状況を評価・見直し、事例検討を行います。

ねらい

  • 昨今のBPSDに関する研究に基づき、チームでのBPSD対応を促進します。

感染症対策

参考:第232回 介護給付費分科会「感染症への対応力強化(改定の方向性)」

医療機関と連携して感染症対応力を強化する」ことを介護報酬で評価する

概要

平時から感染対策に係る知識・技術・意識の向上に努める事業所について評価する新たな加算が提案されています。

【評価する取り組みの例】

  • 新興感染症の発生時等に感染者の診療等を実施する「協定締結医療機関」との連携体制を構築している。
  • 協力医療機関と「感染症発生時の対応」を取り決める。
  • 軽症者など「施設において対応可能な感染者」については、協力医療機関などと連携したうえで「施設内療養」を行う。
  • 感染症対策にかかる一定の要件を満たす医療機関等や地域の医師会が定期的に主催する「感染対策に関する研修」に参加し、助言や指導を受ける。

ねらい

  • 感染拡大の防止、感染者への適切な対応、医療従事者の負担軽減、BCP対策を推進します。

新興感染症の軽症患者について「施設内療養」を行うことを介護報酬で新たに評価

概要

  • 新興感染症のパンデミック発生時等に、高齢者施設等(介護保険施設、特定施設、認知症グループホーム)の施設内で、必要な体制を確保した上で、当該感染者の療養を行うことに対して評価を行う。
  • 適切な医療提供、他入所者への感染拡大防止が重要となるため、「当該感染症への対応を行う医療機関と連携していること」「適切な感染対策を行っていること」などを評価の要件とする。
  • 対象となる感染症は「今後のパンデミック発生時等に必要に応じて指定する」仕組みとする。

ねらい

  • 新型コロナウィルス感染症への対応で医療提供体制がひっ迫する事態となったことへの対策です。

LIFE

参考:第232回 介護給付費分科会「LIFE(改定の方向性)」

LIFEの課題の見直し

概要

  • LIFEへのデータ提出頻度の見直し →少なくとも3か月に1回に統一する。
  • フィードバック内容の充実 →(「自事業所と平均要介護度が同じ事業所との比較」「同じ要介護度の利用者との比較」「地域別などのより詳細な層別化、複数の項目をクロス集計する」などフィードバックを追加する。)

ねらい

  • LIFEへの「現場でのデータ入力負担が重い」、「フィードバック内容の確認がしにくい」などの意見を反映させます。

アウトカム評価の見直し

概要

以下の見直しでは、「アウトカム評価」を重視した評価の改善について触れられています。

褥瘡マネジメント加算】

「褥瘡の発生がないこと」だけでなく、「サービス利用開始時点において褥瘡がある利用者について、サービス開始後に褥瘡が治癒したこと」も新たなアウトカムとして評価します。

排せつ支援加算】

「排せつの状態の改善・おむつの使用の有無」だけでなく、「尿道カテーテル使用の有無」も新たなアウトカムとして評価します。

ADL維持等加算】

ケアによる利用者のADL維持・改善を評価し、維持・改善度合いに応じた評価を行います。

  • 加算Ⅱ(ADLの改善度合いが高い場合の上位区分)のカットオフ値の見直し
  • ADLを良好に維持・改善する事業所を評価する観点、算定要件が複雑である等の指摘があることを踏まえ、ADL利得値に影響を与えない範囲で要件の簡素化を行う

アウトカム評価とは、「状態が改善したという結果に基づく評価」のことです。

ねらい

  • LIFEへのデータ提出が要件となっている加算について「アウトカム評価」の視点を重視した評価とするための見直しです。

口腔衛生管理・栄養管理の推進

参考:第232回 介護給付費分科会「口腔・栄養(改定の方向性)」

概要

  • 訪問介護、訪問看護、訪問リハビリ、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、短期入所生活介護、短期入所療養介護サービスにおいて、歯科医療機関と介護事業所が連携を行うことを新たに評価する。
  • 口腔衛生管理を義務化する。(口腔衛生管理体制加算を廃止し、加算要件の一部を基本サービス費の要件とする。)
  • 栄養管理に関する情報を事業所外へ共有することを新たに評価する。
  • 再入所時栄養連携加算の拡大(対象者が経管栄養または嚥下調整食のみだったが、療養食を提供する必要性がある入所者など、に拡大する。)

ねらい

  • 口腔管理・栄養管理の観点から患者の状態改善を目指していくことを推進します。

BCP策定・高齢者虐待防止に取り組まない事業所への減算

参考:第232回 介護給付費分科会「その他【高齢者虐待の防止、送迎】(改定の方向性)」

概要

BCPの策定や高齢者虐待防止措置(対象のサービス種別)を義務化し、措置が行われていない場合は基本報酬を減算します。
BCP策定:災害や感染症などの緊急事態が起こった際に企業が事業を継続していくための計画を策定すること

ねらい

  • より適切かつ安定的な事業運営を目指します。

見守り機器を導入する老健や特定施設、グループホームで人員配置の緩和を進める

参考:第233回 介護給付費分科会「介護現場の生産性向上の推進(改定の方向性)」

概要

見守り機器、インカム、介護記録ソフトのいずれか1つ以上をすべての利用者に対して導入し、業務の明確化や見直しのガイドラインを策定することを評価します。

ねらい

  • 人員配置基準の柔軟化を目指します。
  • 見守りセンサー、インカム、スマートフォン等のICT活用により夜勤職員1人あたりで対応可能な利用者が平均45.4%増えているというデータに基づいたものです。