いよいよ、2024年の介護報酬改定が迫っています。

本記事では、2023年11月15日時点で確認できる社会保障審議会・介護給付費分科会にて提言されている情報を、簡潔にまとめてご紹介します。
報酬改定への取り組みが円滑に進展する手助けになれば幸いです。
※ここで述べる内容は2023年11月15日現在の情報に基づいており、最終的な介護報酬改定の決定事項ではありません。

3つの介護職員処遇改善加算を一本化

参考:第230回介護給付費分科会「介護人材の処遇改善等(改定の方向性)」

概要
現在3加算それぞれで異なっている職種間賃金配分ルールについて、「介護職員への配分を基本とし、とくに経験・技能のある職員に重点的に配分する」としたうえで、「事業所内で柔軟な配分を認める」形に統一します。
ベースアップ等要件はベースアップ等に充てる割合を見直しつつ、一本化後の新加算全体に適用します。

ねらい

  • 3つの加算を扱うことによる事務負担を軽減します。
  • より事業所・施設の実状に照らし、柔軟にスタッフの処遇改善を行えるようにします。

小規模事業所の大規模化促進

概要
介護サービスの安定的な提供を目的として、小規模事業所の大規模化を政策として推奨します。この提言については、「大規模=効率的とは限らない」という声も多く、まだ議論が続けられている段階です。

ねらい

  • 感染症発生時のスムーズな業務継続につなげます。
  • 教育体系の整備による離職率を低減させます。
  • 資格者を確保します。
  • 一括仕入れ等によるコストを削減します。

居宅(ケアマネ)

参考:第230回 介護給付費分科会「居宅介護支援・介護予防支援(改定の方向性)」

ケアプラン実績等の利用者への説明義務を「努力義務」へ

概要
ケアプラン実績等の利用者への説明義務・公表義務を以下の通り見直しが議論されています。

  • 説明義務を「努力義務」に改める
  • 公表義務は変更しない

ねらい

  • ケアマネの公正中立性を確保しながら業務負担を軽減します。

一定要件下で「オンラインでの利用者定期モニタリング」を認める

概要
月一回の訪問モニタリングを原則としつつ、「テレビ電話装置等を活用したモニタリング」を行えるようになります。オンラインでのモニタリングを行うための要件が設定されています。

ねらい

  • モニタリングのための移動時間の負担を軽減します。

ケアマネ1人辺りの担当利用者上限引き上げ

概要
居宅介護支援費(Ⅰ)について、現在「40件」から逓減制が適用されるところを「45件」に拡大します。
居宅介護支援費(Ⅱ)について、事務職員の配置に加えてケアプランデータ連携システムの活用を図っている場合は、さらに緩和し「50件」からに拡大します。

ねらい

  • 質を維持しながら効率的なケアマネジメント実施を実現し、さらにケアマネ事業所の経営安定を目指します。

ケアマネ事業所が「市町村から指定」を受けて予防マネジメント実施できる環境を整備

概要
市町村長に対し、介護予防サービス計画の実施状況等に関して情報提供をすることを義務付け、このコストを基本報酬上評価します。
ケアマネ事業所が指定介護予防支援を行う場合は、居宅介護支援と同様に特別地域加算等の対象とします。

ねらい

  • 市町村が管内の要支援者の状況を適切に把握できるようにします。

同一建物減算の導入

概要
訪問介護で提案されている同一建物減算をケアマネジメントにも導入する提案がされています。
例えばサ高住に併設・隣接するケアマネ事業所から、当該サ高住の居住者を対象にケアマネジメントを行う場合などには「移動時間が短く」なり、効率的な業務実施が可能となることを踏まえ、「低い報酬の支払いとする」といった提案内容です。
しかし「1日に複数回訪問をする訪問介護などでは効率的かもしれないが、ケアマネにおいては状況が異なるのではないか」「減算の結果『特定事業所加算』を取得できない事態が生じる」という声も上がっています。

ねらい

  • ケアマネジャーの業務の実態を踏まえた評価にします。

新サービス「複合型サービス」の設立※追記あり

参考:第230回 介護給付費分科会「複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)」

概要
訪問型と通所型サービスを組み合わせた「複合型サービス」を新設します。この新サービスは「包括報酬」制度を採用しており、一定期間に対する一律の報酬が設定されます。
これは、現行の小規模多機能型居宅介護サービスから宿泊機能を除いた形のサービスと捉えることができます。

ねらい

  • 通所型サービスで見つかった課題を訪問型サービスでカバーし、切れ目のないケアを提供する。
  • 人材を効率的に活用する。
  • デイサービスと同等の設備があれば始められるため、経営困難な事業所の新サービスへの転換を容易にする。

2023年12月12日追記

12月4日の社会保障審議会・介護給付費分科会において、来年度の介護報酬改定に伴う新サービスの創設については、見送る方針が決定されました。

看多機に「利用頻度が少ない利用者向けの低い報酬」を設定

参考:第228回 介護給付費分科会「看護小規模多機能型居宅介護(改定の方向性)」

概要
看護小規模多機能型居宅介護において、利用者が少ない場合には報酬を引き下げるという提案があります。

ねらい

  • 看多機の一部のサービスだけ利用したい場合、包括報酬の方が高くなる事態を防ぎます。

訪問介護・訪問リハビリ

同一建物減算の厳格化

参考:第230回 介護給付費分科会「訪問介護・訪問入浴介護(改定の方向性)」

概要
現在、訪問介護事業所について、「同一敷地内・隣接敷地内に所在する建物」に居住する利用者について10~15%減算という仕組みがあります。
この減算規定を推進・厳格化していくべきという提案があります。
しかし、一部からは全体に減算を適用することへの不公平感や、質の高いケア提供の観点からの見直しを求める声が上がっています。
今後、どういった方向に進めるべきか、さらに議論を継続する必要があります。

ねらい

  • 減算を受けてもなお、同一建物は利益率が良いという意見を受けて、減算をより厳格化する

訪問リハでも通所リハ同様の「医療保険リハビリとの連携」強化

参考:第230回 介護給付費分科会「訪問リハビリテーション(改定の方向性)」

概要
訪問リハビリは通所リハビリに通えない在宅要介護者を対象としたサービスですが、通所リハビリでは既に実施されている、「医療保険リハビリとの連携」を強化してはどうかという提案があります。
具体的には

  • リハビリにおける医療介護連携を推進:基本報酬の算定要件に「医療機関のリハビリ計画書を入手した上で、リハビリ計画を作成する」ことを加える
  • 認知症リハビリの推進:利用者の生活機能を改善するためのリハビリを実施した際の加算を新たに設けるなどが提案されています。

ねらい

  • 医療保険リハビリから介護保険リハビリへの移行を円滑にします。
  • 介護老人保健施設からも訪問リハビリの提供を行いやすくします。

訪問看護

参考:第230回 介護給費分科会「訪問看護(改定の方向性)」

重度者対応の強化

概要
専門性の高い看護師が「指定訪問看護の実施に関する計画的な管理を行う」ことを介護報酬で評価します。

ねらい

  • 「新生物」「神経系の疾患」「循環器系の疾患」「筋骨格計・結合組織の疾患」など重度なケアのニーズが高い利用者への対応を強化します。

看取り対応の強化

概要
介護保険のターミナルケア加算の引き上げが検討されています。

ねらい

  • 介護保険と医療保険の訪問看護で、同じケア内容にも関わらず異なる評価がなされる現状を踏まえた改善をします。

24時間対応365日対応の負担軽減

概要
看護師へ速やかに連絡できる体制が整備された上で、看護師等以外の職員も利用者・家族等からの電話連絡を受けられるようにします。

ねらい

  • 相談内容のなかに「看護師等が対応しなくても良いもの」もあることによる看護師等への負担を軽減します。

通所リハビリ

参考:第229回 介護給付費分科会「通所リハビリテーション(改定の方向性)」

通所リハビリの大規模減算見直し

概要
大規模型の通所リハビリテーションに対する減算を見直し、報酬体系を改善します。
現在の通所リハビリテーションは大規模になるほど経営効率が良いと考えられ、基本報酬を低く減算されていました。
これには「事業所等の大規模化に逆行している」という声も多く、例えば「リハマネ加算算定率が高い質の高いリハ提供を行う大規模通所リハ事業所では、通常規模型と同じ基本報酬とする」等、報酬体系の見直しが検討されています。

ねらい

  • 規模以外の評価基準を設け、適正な報酬体系を整備します。

入院中のリハ計画書入手を義務化

概要
ケアプランにリハを位置づける際、意見を求めることとされている「主治医」に「入院先の医療機関の医師を含む」ことを明確化します。
基本報酬の算定要件に「医療機関のリハ計画書を入手した上で、リハ計画書を作成する」旨を加えます。

ねらい

  • 医療と介護連携を強化し、質の高いリハ提供を目指します。

通所介護

通所介護の大規模減算見直し

参考:第219回 介護給付費分科会「通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護」

概要
上述の通所リハビリと同様、通所介護においても大規模減算の見直しの声が上がっています。(詳しい概要は通所リハビリを参照)

ねらい

  • 規模以外の評価基準を設け、適正な報酬体系を整備します。

通所介護の入浴介助加算(Ⅰ)において、「研修受講」を義務化

参考:第229回 介護給付費分科会「通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護(改定の方向性)」

概要
入浴介助加算(Ⅰ)において、入浴介助の技術として求められる研修内容を算定要件に組み込みます。

ねらい

  • より安全な入浴介助を提供する。

入浴介助加算(Ⅱ)において、ICT機器を活用で医師の訪問が不要に

参考:第229回 介護給付費分科会「通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護(改定の方向性)」

概要
入浴介助加算(Ⅱ)は「医師等が利用者宅を訪問し、浴室における入浴動作・浴室の環境を評価し、必要に応じて設備改修などの助言を行う」となっていましたがこれを「介護職員が訪問し、医師の指示のもとICT機器を活用して状況把握を行い、医師等が評価助言する」ことも可能となります。

ねらい

  • 医師等の訪問が不要となり、介護職員による利用者宅の評価ができるようにします。

今回の改正では見送りされたもの・次回以降で改正されるもの

  • 訪問介護・通所介護の給付カット
    要介護1~2の訪問介護や通所介護の介護サービスを総合事業へ移行する狙いがありました。
    人員基準の緩和による介護費の抑制などのメリットもあるが、サービスの質の低下や事業所の撤退などの懸念から、2024年度は見送りが決定。
  • ケアプラン有料化
    在宅サービスにおけるケアプランの作成は現在10割保険負担のため、利用者負担はありませんが、施設サービスでは利用者が負担していることから、政府は公平性を保つ狙いから有料化を提言していました。
    「利用者やご家族からの要求がエスカレートしかねない」などの反対意見が多く2027年度の改定に持ち越されました。
  • 利用者負担の増額検討
    現在、ほとんどの利用者が1割負担で介護サービスを利用していますが、今後は2割、3割の負担に分類される利用者を増やす方向で検討が進んでいます。
    この負担割合の見直しについて、2024年6月の閣議決定まで先送りとなりました。
  • 定期巡回と夜間訪問の統合
    どちらも「定期的な訪問+随時の訪問」により、要介護状態が中重度になっても住み慣れた在宅での生活を継続できる環境整備を目指すものなので、「機能、態様が類似」しています。
    このため、両社を統合する方向が示されています。
    サービスの統合には介護保険法等の改正が必要になる為、法改正を経て、2027年度の介護報酬改定で対応を行う見通しです。

おわりに

介護業界で働く皆さまにとって、この情報が将来の準備と事業計画の策定にお役立ていただければ幸いです。
そして、介護保険料の負担増をはじめとする様々な課題に対して、我々は賢明な対応策を考え、行動に移していかなければなりません。

今後も最新の介護報酬改定情報を追い続け、皆さまに分かりやすく解説してまいります。
次回の更新では施設系の改定について触れていきます。
引き続きご注目いただければと思います。